豊胸

豊胸手術のダウンタイムと回復期間のすべて：専門医が徹底解説

術式別にみる豊胸手術のダウンタイムと回復期間の実際

目次

• ・豊胸手術の種類と選択基準
• ・術式ごとに異なるダウンタイムの実際
• ・痛みの評価と管理法
• ・術後合併症の予防と早期発見
• ・日常生活・仕事復帰までの指導
• ・術後フォローアップと長期管理
• ・デザインと結果に関するQ&A
• ・まとめ

豊胸手術の種類と選択基準

主要な豊胸術式とその特徴

• ・シリコンバッグ挿入（インプラント豊胸）：最も一般的。バッグの種類（ラウンド型、アナトミカル型）、表面テクスチャー（スムース、テクスチャード）など多様。術後のボリューム維持が長期間可能。
• ・自己脂肪注入：患者自身の脂肪を使うため、自然な触感と形態が得られる。脂肪採取部位（腹部、大腿、腰部など）からの吸引も必要。生着率が課題。
• ・ヒアルロン酸注入：ダウンタイムが短く、低侵襲。効果は一時的で、数ヶ月から1年程度で吸収。

術式の選択基準

• ・希望するボリュームやデザイン（デコルテの立体感、乳房下縁のカーブなど）
• ・患者の全身状態、既往歴（自己免疫疾患、出血傾向など）
• ・将来の乳がん検診や授乳希望の有無
• ・ダウンタイムや社会復帰までの期間
• ・脂肪採取可能量や皮膚の伸展性

術式ごとに異なるダウンタイムの実際

シリコンバッグ挿入術のダウンタイム

• ・侵襲度が高く、術後の腫脹、疼痛、内出血、筋肉痛様症状が1～2週間持続することが多い。
• ・インプラントの挿入層（乳腺下、筋膜下、大胸筋下）やアプローチ法（腋窩、乳輪周囲、乳房下縁）によっても異なる。
• ・抜糸まで5～7日、日常生活復帰に2週間、運動制限は4～6週間を要する。
• ・インプラント周囲の被膜形成による拘縮リスクを考慮し、術後早期からのマッサージ指導や定期チェックが重要。

脂肪注入豊胸のダウンタイム

• ・脂肪吸引部の腫脹や疼痛が主訴となりやすい。乳房部位は比較的軽度。
• ・吸引部の圧迫固定（ガードル等）は2週間前後推奨。内出血は2～3週で消退。
• ・脂肪注入部位のしこり形成や脂肪壊死予防のため、過度の圧迫やマッサージは禁忌。
• ・生着率向上には術後2か月程度の禁煙・体重管理・安静が重要。

ヒアルロン酸注入法のダウンタイム

• ・術後数日程度の腫脹や軽度疼痛、内出血斑が出現することがある。
• ・日常生活はほぼ翌日から可能。
• ・定着性が低いため、数ヶ月ごとのリタッチが必要な場合もある。

痛みの評価と管理法

疼痛の評価スケールと指導

• ・VAS（Visual Analog Scale）、NRS（Numerical Rating Scale）等を用いて客観的評価を行う。
• ・術後48時間は疼痛のピークとなるため、鎮痛薬（NSAIDs、アセトアミノフェン、場合によりオピオイド）を計画的に投与。
• ・神経ブロック（肋間神経ブロック、ローカルインフィルトレーション）を術中併用する施設もある。
• ・慢性疼痛リスク（神経損傷やカプセル拘縮由来）の説明と、症状持続時の早期診断・介入が重要。

術式別の痛みの特徴と対策

• ・インプラント挿入：大胸筋下法では筋肉の伸展による強い痛みが数日間持続。筋膜下法や乳腺下法ではやや軽度。
• ・脂肪注入：吸引部の鈍痛・筋肉痛様の違和感が主。乳房本体の痛みは比較的軽微。
• ・ヒアルロン酸注入：注射部位の圧痛や軽い腫脹が主体。ほとんどの場合、鎮痛薬の追加投与は不要。

術後合併症の予防と早期発見

主要な合併症とその対応

• ・感染（インプラント周囲感染、脂肪注入部感染、蜂窩織炎）：術後1週間以内が多い。発赤、腫脹、発熱、疼痛の増悪がサイン。早期の抗菌薬投与や、重症例ではインプラント抜去が必要。
• ・血腫・漿液腫：術直後から数日で出現。ドレーン留置や穿刺排液の適応判断が重要。
• ・カプセル拘縮：インプラント周囲の線維性被膜が収縮し、硬結や変形をきたす。Baker分類で重症度を評価し、ステロイド投与や被膜切除術を検討。
• ・脂肪壊死・石灰化：脂肪注入後のしこり形成や異常触感の原因。超音波やMRIで診断し、必要に応じて穿刺除去や摘出。
• ・塞栓症（脂肪塞栓、血栓塞栓）：極めて稀だが致命的。呼吸困難や意識障害を認めたら緊急対応。
• ・感覚異常：乳首や乳房皮膚の知覚低下や過敏。多くは一過性だが、長期化する場合は神経損傷を疑う。

予防のための術前・術後管理

• ・厳格な無菌操作と術野消毒
• ・術前の感染症スクリーニング（MRSA、B型・C型肝炎、HIVなど）
• ・術後の適切なドレッシング交換、創部観察
• ・早期の異常サイン（発赤、腫脹、熱感）の自己観察指導

日常生活・仕事復帰までの指導

日常生活の制限事項とその解除時期

• ・シャワー浴：創部防水処置が完了すれば翌日～2日目から可能（術式や創部状態による）。浴槽入浴は抜糸後～2週間以降。
• ・運動：軽い歩行や日常動作は2～3日目から可能。上肢挙上運動や胸筋を使う運動（重い荷物持ち、ジムトレーニング等）は4～6週間後から再開。
• ・ブラジャー着用：術後はノンワイヤーブラや専用固定バンドを2～4週間装着。ワイヤーブラは被膜安定後（1～2か月後）から。
• ・飲酒・喫煙：術後2～4週間は禁忌。脂肪注入術では禁煙期間を長めに設定（生着率向上目的）。
• ・性行為・乳房マッサージ：術後1か月程度は禁止。インプラント周囲の安定化や感染予防のため。

仕事復帰と社会生活の目安

• ・デスクワーク：シリコンバッグ・脂肪注入ともに3～7日で復帰可能なケースが多い。
• ・肉体労働や介護職：4～6週間の安静期間を要す。
• ・接客業やモデル業：腫脹・内出血の残存期間（2～3週間）を考慮し、メイクや着衣でカバーが必要。

術後フォローアップと長期管理

定期診察と経過観察

• ・術後1週間以内：創傷治癒、感染徴候、血腫・漿液腫の有無をチェック。
• ・1カ月・3カ月・6カ月・1年：インプラント位置や被膜の状態、脂肪生着の評価、しこり・石灰化のチェック。
• ・インプラント症例では年1回のMRI検査を推奨（被膜拘縮や破損の早期発見目的）。

長期的な注意事項

• ・シリコンバッグは10～15年で入れ替え推奨。経年劣化や被膜拘縮、BIA-ALCL（インプラント関連リンパ腫）リスク説明が重要。
• ・脂肪注入後は体重増減や妊娠、加齢による乳房形態変化に留意。しこり・石灰化が乳癌検診で誤認されないよう情報提供を。
• ・ヒアルロン酸注入例では、吸収後の乳房萎縮感や変形に注意し、定期的な補充や他術式への切り替えも検討。

デザインと結果に関するQ&A

Q1：理想的なバストデザインはどう決める？

• ・乳房下縁のカーブ、デコルテの立体感、乳頭の位置と左右対称性、乳輪径、既存組織の厚みや皮膚の伸展性を総合的に評価。
• ・術前シミュレーション（3D画像、エコー計測）や試着用インプラントで最終イメージを共有。
• ・患者希望と解剖学的制約（皮膚の伸展限界、乳腺組織の量）を擦り合わせる。

Q2：複数回の手術が必要な場合のスケジュール例

• ・脂肪注入：1回の注入量は限界があるため、2～3回の分割施行が推奨されるケースが多い。各回の間隔は3～6か月。
• ・インプラント交換：破損や被膜拘縮、希望デザイン変更等で10年ごとに交換する場合も。

Q3：術後の乳癌検診はどうする？

• ・インプラント挿入例ではマンモグラフィの圧迫に制限が生じやすく、超音波・MRI併用が推奨。
• ・脂肪注入後のしこり・石灰化は良性所見であることを乳腺外科医と情報共有。
• ・術後経過や使用素材を記載した「手術証明書」を発行し、他院受診時に提示できるようにする。

まとめ

豊胸手術のダウンタイムや回復期間は、術式ごとに大きく異なります。インプラント挿入術は侵襲度が高く、適切な疼痛管理や被膜拘縮予防が重要。脂肪注入法は吸引部のケアや生着率の維持がポイントです。ヒアルロン酸注入法は低侵襲ですが、効果の持続性が課題となります。術後の合併症リスクを予防・早期発見するため、定期的な診察と患者教育が不可欠です。各患者の希望や生活背景、体質をふまえた術式選択と、科学的根拠に基づく術後管理が、満足度の高い豊胸治療実現の鍵となります。

今後も新たな材料や術式の進歩、AIや3Dシミュレーション技術の導入により、より安全かつ理想的なバストデザインが可能となるでしょう。美容外科専門医として、最新の知見をもとに患者さん一人ひとりに最適な治療プランを提案し、術後管理までしっかりとサポートしていくことが求められます。